東京高等裁判所 平成5年(行ケ)177号 判決 1996年3月13日
アメリカ合衆国
カリフォルニア州 92714 アーバイン スウィート200 メイン・ストリート 2355
原告
デイスコビジョン アソシエイツ
代表者
デニス フィシェル
訴訟代理人弁理士
藤村元彦
同
伊藤嘉昭
東京都千代田区霞が関三丁目4番3号
被告
特許庁長官 清川佑二
指定代理人
臼田保伸
同
及川泰嘉
同
伊藤三男
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
この判決に対する上告のための附加期間を30日と定める。
事実及び理由
第1 当事者の求めた判決
1 原告
特許庁が、昭和59年審判第13097号事件について、平成5年5月18日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告
主文1、2項と同旨
第2 当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯
原告は、1978年3月27日米国特許出願第890770号に基づくパリ条約優先権を主張して、昭和54年2月21日、名称を「光ディスクプレイヤ」とする発明(以下「本願発明」という。)につき特許出願をした(特願昭54-18502号)が、昭和59年3月16日に拒絶査定を受けたので、同年7月13日、これに対する不服の審判の請求をした。
特許庁は、同請求を昭和59年審判第13097号事件として審理したうえ、平成5年5月18日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は、同年6月28日、原告に送達された。
2 本願発明の要旨
別添審決書写し記載のとおり。
3 審決の理由の要点
審決は、別添審決書写し記載のとおり、本願発明は、本願出願前に頒布された刊行物である米国特許第4068851号明細書(以下「引用例1」といい、その発明を「引用例発明1」という。)及び実公昭15-14050号公報(以下「引用例2」といい、その発明を「引用例発明2」という。)に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められ、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないとした。
第3 原告主張の審決取消事由の要点
審決の理由中、本願発明の要旨、引用例1及び2の記載事項、本願発明と引用例発明1との一致点及び相違点の各認定は認める。
審決は、相違点(1)ないし(3)の判断を誤り(取消事由1~3)、また、本願発明の顕著な作用効果を看過し(取消事由4)、その結果、誤った結論に至ったものであるから、違法として取り消されるべきである。
1 取消事由1(相違点(1)の判断の誤り)
審決は、本願発明と引用例発明1との相違点(1)として、「前者は、光ディスクプレイヤであるのに対して、後者は、その点が明確でない点」(審決書6頁8~9行)と認定しながら、「光ディスクプレイヤ自体は周知(例えば・・・特開昭53-27408号公報参照)であるから、この点の相違は格別なものではない。」(同7頁7~10行)と判断している。光ディスクプレイヤ自体が周知であることは認めるが、上記判断は、以下に述べるとおり、誤りである。
光学式ディスクプレイヤにおいては、ターンテーブルのディスク担持面と光ピックアップとの回転軸方向の位置関係は、フォーカシング(焦点合わせ)動作を考慮するならば、固定されていることが望ましいことは明らかである。
引用例発明1の図面第6図の構成においては、ターンテーブルに相当する回転ディスク16のディスク担持面に柔軟なパッド26を設けているから、ピックアップヘッド30(図面第1図参照)に対してディスクの下面すなわち記録面の相対的位置が一義的に決まらない。このような構成の中で、もし、ピックアップヘッド30が光学式とするならば、読取ビームのいわゆるフォーカシングのための対物レンズの移動範囲をその分大きくしなければならない。このことは、引用例発明1の図面第1図及び第5図においても同様である。
したがって、引用例発明1のピックアップヘッド30を光学式とし、引用例発明1のディスクプレイヤを光学式とすることは、当業者にとっては困難であるから、審決の相違点(1)の判断は誤りである。
2 取消事由2(相違点(2)の判断の誤り)
審決は、本願発明と引用例発明1との相違点(2)として、「前者のクランプ手段は、スピンドルシャフトの中心軸方向において移動自在なクランプ部材と、前記クランプ部材に前記ディスク担持面に向かう付勢力による偏圧を与える偏圧付与手段とを有しているのに対して、後者のクランプ手段は、ディスクをターンテーブルに対し押圧し、前記ディスク及びターンテーブルとともに一体となって回転する押圧円盤によって構成されている点」(審決書6頁10~17行)と認定しながら、「この種のディスクプレイヤにおいて、ディスクをディスク担持面上に固定するクランプ手段を、スピンドルシャフトの中心軸方向において移動自在なクランプ部材と、該クランプ部材に前記ディスク担持面に向かってばねによる付勢力によって偏圧を与える偏圧付与手段とを用いて構成することは周知(例えば・・・実開昭51-64609号公報参照)であるから、この点の相違は、該周知技術を参照することにより、当業者が容易に変更実施し得る事項にすぎない。」(同7頁13行~8頁4行)と判断しているが、誤りである。
引用例発明1は、図面第1図を参照すると、クランプ手段としては、押圧ディスク36の他に、これを回転自在に支持する静止安定化ディスク32及びカバー11が用いられている。これらの静止安定化ディスク32、カバー11及び押圧ディスク36は、ディスク回転軸方向において剛結合されている。そして、図面第6図の構成においては、回転ディスク16のモーターシャフト12’に直結しているのである。この点に関し、図面第5図の構成において、回転ディスク16とモーターシャフト12’の間に圧縮バネ18が介装されているのとは異なる。すなわち、図面第6図の構成においては、押圧ディスク36と回転ディスク16とが剛的にディスク22を挟持する形であり、このままではディスク22の厚みのバラツキがあるので、すべてのディスクに対して適切な挟持力を得るのは困難である。そこで、柔軟なパッド26が回転ディスク16の外側部161上に設けられて、圧縮バネ18の圧縮と同時に圧縮されるようになっており、これによってディスク22を柔軟に挟持するのである。
審決は、実開昭51-64609号公報(甲第7号証)に示されるように、クランプ手段を、クランプ部材をディスク担持面に向かって偏圧を与える偏圧付与手段によって構成することは周知であると認定している。しかし、かかるクランプ手段を公知ということはできても、他の文献等を示すことなく、これのみで周知ということはできない。
また、審決は、相違点(2)については、当業者が容易に変更実施しうる事項にすぎないと判断しているが、上記実開昭51-64609号公報(甲第7号証)に開示されたクランプ手段は、ディスクの厚みのバラツキ等に対応して、適切な挟持力を与えるものであることは明らかであるから、ディスクの厚みのバラツキを吸収しうる柔軟な挟持をなす構成が既に含まれている引用例発明1の構成に、さらに同公報のクランプ手段をあえて組み込む必然性は全くないというべきである。
もし仮に、同公報に開示されたクランプ手段を引用例発明1の構成に組み込んだとした場合、ディスクを挟持するクランプ部材側とターンテーブル側の双方が柔軟な構成となり、この状態でディスクが回転したならば、ディスクの回転軸方向のぶれが大きくなり、好ましくないことは明らかである。特に、このディスク面のぶれは、フォーカシング(焦点合わせ)に困難を来し、光ディスクプレイヤにおいては不具合である。
したがって、この組合せを容易であるとした審決の判断は誤りである。
3 取消事由3(相違点(3)の判断の誤り)
審決は、本願発明と引用例発明1との相違点(3)として、「前者の付勢手段は、ディスクの非載置時に前記ディスク担持面より前記クランプ部材側における前記テーパ部の最大径が前記ディスクの中心孔の直径よりも大となるように前記芯出し部材を前記クランプ部材に向けて付勢しているのに対して、後者の付勢手段は、その点が必ずしも明確ではない点」(審決書6頁18行~7頁4行)と認定しながら、「第2引用例に記載された円形勾配盤(4)即ち芯出し部材はその機能からみて、ディスクの非載置時に、前記ディスク担持面より加圧板(6)即ちクランプ部材側におけるテーパ部の最大径が前記ディスクの中心孔の直径よりも大となるように前記クランプ部材に向けて付勢されているものと認められるので、この点の相違も格別なものとは認められず、第2引用例に記載された技術を参照することによって当業者が容易に実施し得る事項にすぎない。」(同8頁6~15行)と認定判断しているが、誤りである。
引用例2(甲第5号証)の図面は、加圧板(6)が録音盤(1)を回転板(2)に押圧固定した状態を示しているが、この状態において、円形勾配盤(4)は、発条(5)により上方に付勢されて中心栓(3)の拡径部に既に当接している。したがって、加圧板(6)及び録音盤(1)を取り外したとしても、円形勾配盤(4)が図示の状態よりも更に上方に移動することはないはずである。よって、引用例発明2の構成においては、「ディスクの非載置時にテーパ部の最大径がディスクの中心孔の直径よりも大となるような位置に移動する」とは認識できない。
また、引用例2の図面において、録音盤(1)の中心孔は下方に向かって拡径しており、このような構成においては、芯出し部材のテーパ部の最大径と比較さるべきディスクの中心孔の直径は最小径なのか或いは中間径なのか最大径なのか定まらないのである。したがって、かかる録音盤(1)の中心孔の形状からしても、審決の相違点(3)の認定判断は誤りである。
4 取消事由4(顕著な作用効果の看過)
審決は、「第1乃至第2引用例に記載されたものも、ディスクの中心孔径のばらつきに拘らずターンテーブルに対して確実に芯出しを行っているものと認められるので、本願発明が奏する作用効果も格別なものとは認められない。」(審決書8頁16~20行)と認定判断しているが、誤りである。
引用例発明1の図面第6図の場合について検討してみると、ディスククランプの際には、まず、ディスク22がパッド26の上に載置された後に押圧ディスク36が上方から降りてきてディスク22をパッド26に対して押圧するのでパッド26が圧縮されるのである。このとき、ディスク22の中心孔がテーパ部164に当接して、テーパ部164も押圧されるので、パッド26の圧縮と共に圧縮バネ18も圧縮されるのである。
換言すれば、芯出し完了前に、ディスク22が押圧ディスク36とパッド26とによってまず挟持され、パッド26の圧縮と共にパッドの反撥力は強まるのでディスク22に対する挟持力が増大しつつ芯出しがなされるのである。ところが、芯出しは、ディスクのパッド26の面に平行な方向への移動によってなされるのであるから、芯出しと共にディスク22に対する挟持力が強まるのである。この結果、ディスク22の芯出しがかえって阻害されることになってしまっている。
したがって、「第1・・・引用例に記載されたものも、ディスクの中心孔径のばらつきに拘らずターンテーブルに対して確実に芯出しを行っている」との審決の上記認定は誤りである。
次に、引用例発明2の構成について検討すると、ディスク非載置時における円形勾配盤(4)の静止位置が必ずしも明確でないのであり、ディスクの載置によってディスクの中心孔が円形勾配盤(4)のテーパ面に必ず当接するという構成かどうか明らかではなく、どのように芯出しがなされるのか必ずしも明らかでない。
したがって、「第2引用例に記載されたものも、ディスクの中心孔径のばらつきに拘らずターンテーブルに対して確実に芯出しを行っている」との審決の上記認定は誤りである。
さらに、ディスクのクランプの際に生ずる偏心の原因は、ディスクの中心孔径のばらつきだけでなく、ディスク装填の際の不具合によることもある。すなわち、ディスクの中心孔と芯出し部材のテーパ面との間の摩擦により、ターンテーブルへのディスク載置の際に記録面がターンテーブルに正しく平行に装着されないことがあり、これをそのままクランプ部材によりターンテーブルに押圧すると、ディスクの中心孔と芯出し部材のテーパ面との間に「こじれ」が生じて、正しい芯出しが行われない。
この点について、引用例発明2を検討すると、加圧板(6)は中心栓(3)に螺合されており、手動により加圧板(6)は下方に移動せしめられ、ディスクを回転板(2)に対して挟持するのである。このとき、芯出し部材としての円形勾配板(4)とディスクの中心孔との間に「こじれ」が生じたとしても、加圧板(6)はディスクからの反力を吸収する柔軟性が与えられておらず、かかる「こじれ」を修正させる作用が生じない。
これに対して、本願発明においては、クランプ部材を偏圧付与手段によって偏圧してクランプ部材をターンテーブルにむけて押圧する構成であるから、芯出し部材のテーパ面とディスクの中心孔との間に上記したような「こじれ」が生じた場合であっても、クランプ部材はディスクからの反力に応じて僅かに応動し、結果としてディスク自身による僅かな姿勢修正を許容して、この「こじれ」を解消させることに有効なのである。
したがって、審決は、引用例発明1及び2の作用効果を誤認したうえ、本願発明の顕著な効果を看過した誤りがある。
第4 被告の反論の要点
審決の認定判断は正当であり、原告主張の審決取消事由はいずれも理由がない。
1 取消事由1について
本願発明の特許請求の範囲には、ターンテーブルのディスク担持面と光ピックアップとの回転軸方向の位置関係を特定するような記載は全くない。
また、引用例1(甲第4号証)にその実施例として記載されているディスクプレイヤにおいては、偏圧付与手段側が実質的に固定されているので、記録面の相対的位置は、少なくとも固定されている偏圧付与手段側を基準として一義的に定まっているものであり、さらに、引用例発明1の特許請求の範囲の記載からみて、パッド26は必須のものではなく、必要に応じて適宜設けているにすぎないものであることは明らかであるから、原告の主張は理由がない。
2 取消事由2について
ディスクプレイヤにおいて、ディスクをディスク担持面に固定するクランプ手段を、スピンドルシャフトの中心軸方向において移動自在なクランプ部材と、該クランプ部材に前記ディスク担持面に向かう付勢力による偏圧を与える偏圧付与手段とを用いて構成することが周知であることは、実公昭16-16908号公報(乙第1号証)あるいは特公昭49-26570号公報(乙第2号証)からも明らかであるから、その周知技術を参照することにより、当業者が適宜変更実施しうる事項であることは当然である。
すなわち、上記実公昭16-16908号公報(乙第1号証)には、回転軸(1)(スピンドルシャフト)の中心軸方向において移動自在な円筒(4)(クランプ部材)と、円筒(4)に回転板(7)(ディスク担持面)に向かって圧縮弾機(5)(ばね)による付勢力によって偏圧を与える技術手段が記載されており、また、上記特公昭49-26570号公報(乙第2号証)には、スピンドル(13)(スピンドルシャフト)の中心軸方向において移動自在なフランジ(89)(クランプ部材)と、フランジ(89)(クランプ部材)にリブ(82)(ディスク担持面)に向かってばね(88)(偏圧付与手段)による付勢力によって偏圧を与える技術手段が記載されている。
原告は、また、偏圧付与手段に関して、ディスクが剛的に挟持されているか、あるいは柔軟に挟持されているかを論じて、引用例発明1と実開昭51-64609号公報(甲第7号証)のクランプ手段を組み合わせた場合の問題点を指摘しているが、本願発明の特許請求の範囲には、本願発明におけるクランプ手段が、ディスクを剛的に挟持しているのか、あるいは柔軟に挟持しているのかは特定されていないから、引用例1に記載されている押圧ディスク36が、静止安定化ディスク32及びカバー11によって剛的にディスク担持面に向かう押圧力が加えられているものであるとしても、この押圧力は、本願発明における付勢力に相当するものであることは明らかである。
したがって、原告の偏圧付与手段に関する主張は、本願発明の特許請求の範囲の記載に基づかない主張であり、失当である。
3 取消事由3について
引用例2(甲第5号証)の図面には、加圧板(6)によって録音盤(1)が回転板(2)に押圧固定されたときに円形勾配盤(4)が下方に移動しつつ発条(5)が圧縮されている状態が点線によって示されており、さらに、引用例2には、「本案装置ヲ使用シタル録音機ニ依ルトキハ中心栓(3)ニ嵌合セシメタル録音盤(1)ハ其中心孔ノ内徑ト圓形勾配盤(4)ノ外徑トカ同徑ヲナス位置ニ止リ更ニ加壓板(6)ヲ以テ之ヲ廻轉板ニ抑壓固定スルトキハ録音(1)ハ廻轉板(2)ト完全ニ同心ニ固定セラレルコトトナルモノナリ」(同号証1頁上欄末行~下欄4行)と明記されているから、「第2引用例に記載された技術を参照することによって当業者が容易に実施し得る事項にすぎない。」とした審決の認定判断に誤りはない。
4 取消事由4について
引用例発明1の内部部材163あるいは引用例発明2の円形勾配盤(4)が、ディスクの中心孔のばらつきに拘らず確実に芯出しを行うために設けられていることは、各引用例の記載をみれば明らかである。
すなわち、引用例1(甲第4号証)には、「上部にテーパ状の領域を有する回転ディスクは、回転可能で且つ駆動軸と同軸中心に可動連結され、さらにカバーが閉じた状態にあるとき製造精度の変動によりビデオディスクの間で互いに変化する孔の寸法や軸の大きさにかかわらず回転ディスクのテーパ状の領域をディスクの中心孔に正しく係合せしめる圧縮ばねに担持されている。」(同号証訳文3頁3~10行)及び「テーパ領域164は、圧縮ばね18によって回転ディスクの特性とは独立に上方に付勢されるので、パッドが最大に圧縮されたときでも、テーパ領域はディスクの中心孔と係合することができる。」(同訳文12頁5~8行)との記載があり、引用例2(甲第5号証)には、「本案装置ハ録音板(1)ヲ廻轉板(2)上ニ完全ニ之ト同心ニ固定セシメ得ルヲ以テ扁心録音ノ虞無ク」(同号証1頁下欄5~6行)と明記されている。
また、引用例2の加圧板(6)の螺子部材(3")も、実質的には、加圧板(6)に回転板(2)に向かう付勢力による偏圧を与えるために偏圧付与手段として機能しているものと認められる。
原告は、本願発明は、「こじれ」を解消するのに有効である旨主張するが、クランプ手段を、スピンドルシャフトの中心軸方向において移動自在なクランプ部材と、該クランプ部材に前記ディスク担持面に向かう付勢力による偏圧を与える偏圧付与手段とを用いて構成することと、クランプ部材がディスクからの反力を吸収する柔軟性を備えているか否かとは関係のない事項である。
したがって、原告の上記主張は、本願発明の特許請求の範囲の記載に基づいた主張とは認められず、失当である。
第5 証拠
本件記録中の書証目録の記載を引用する。書証の成立はいずれも当事者間に争いがない。
第6 当裁判所の判断
1 取消事由1(相違点(1)の判断の誤り)について
審決認定のとおり、「光ディスクプレイヤ自体は周知・・・である」ことは、当事者間に争いがない。
そして、前示本願発明の要旨、本願明細書(甲第2、第3号証)の全記載、特に、「本発明は光デイスクプレイヤに関し、特にディスクの芯出しをなす芯出し機構に関する。」(甲第2号証1欄22~23行)、「その目的とするところは、中心孔径のバラつきに拘らず総ての光ディスクをターンテーブルに対して確実に芯出しすることの出来る光デイスクプレイヤを提供することである。」(同号証3欄25~28行)との記載によれば、本願発明が、中心孔径のバラつきに拘らず総ての光ディスクをターンテーブルに対して確実に芯出しすることのできる芯出し機構に関するものであることが明らかである。
このような確実に芯出しすることを目的とする芯出し機構は、光ディスクプレイヤのみならず、引用例2(甲第5号証)の「圓板式録音機ニ於ケル録音板固定装置」(同号証1頁上欄9行)のように、「録音板(1)ノ中心孔ハ大小アリテ其大キサ一定セサルヲ以テ・・・録音板(1)ノ中心ト廻轉板(2)ノ中心トヲ正確ニ一致セシムルコト困難ナリシ」(同1頁上欄20~22行)円盤式録音機についても、また、審決が周知例として挙げた特開昭53-27408号公報(甲第6号証)の「情報収録レコードのクランプ装置」(同号証1頁左欄「発明の名称」)のように、「駆動スピンドル12が駆動される前にビデオレコードは回転軸17に交差する究極の同軸位置にほぼ位置すること」(同号証5頁左下欄4~6行)が必要な「中心孔を有する回転可能円盤情報収録レコード・・・特にビデオレコード」(同2頁右上欄15~17行)のプレイヤにおいても、従来から採用されている機構であることは明らかである。
したがって、引用例発明1の「オーディオ・ビデオディスク演奏装置」(甲第4号証訳文1頁)の「製造精度の変動によりビデオディスクの間で互いに変化する孔の寸法や軸の大きさにかかわらず回転ディスクのテーパ状の領域をディスクの中心孔に正しく係合せしめる」(同3頁6~9行)芯出し機構を、周知の光ディスクプレイヤに適用できることは、当業者にとって自明の事柄であるというべきである。
審決が、「光ディスクプレイヤ自体は周知(例えば・・・特開昭53-27408号公報参照)であるから、この点の相違は格別なものではない。」(同7頁7~10行)としたのは、この趣旨と認められ、そこに、原告主張の誤りはない。
なお、原告は、当初、「光学式ディスクプレイヤにおいて、ターンテーブルのディスク担持面と光ピックアップとの回転軸方向の位置関係は固定されていなければならない」(原告準備書面第1回15頁6~9行)から、引用例発明1のピックアップヘッドを光学式として、引用例発明1のディスクプレイヤを光学式とすることは、当業者にとって困難であると主張しながら、後に、これを「固定的であることが望ましい」(同第3回2頁18行)と訂正した。この後者の理由では、光学式ディスクプレイヤにおいては、ターンテーブルのディスク担持面と光ピックアップとの回転軸方向の位置関係は、フォーカシング(焦点合わせ)動作を考慮したとしても、固定されていることが必然的なものということはできないから、原告の取消事由1の主張は、そもそも成り立ちえないことが明らかであって、この点からも、同主張はおよそ採用の限りでない。
2 取消事由2(相違点(2)の判断の誤り)について
本願発明と引用例発明1とが、審決認定の相違点(2)のとおり、「前者のクランプ手段は、スピンドルシャフトの中心軸方向において移動自在なクランプ部材と、前記クランプ部材に前記ディスク担持面に向かう付勢力による偏圧を与える偏圧付与手段とを有しているのに対して、後者のクランプ手段は、ディスクをターンテーブルに対し押圧し、前記ディスク及びターンテーブルとともに一体となって回転する押圧円盤によって構成されている点」(審決書6頁10~17行)で相違していることは、当事者間に争いがない。
そして、本願明細書(甲第2、第3号証)の記載によれば、本願発明の実施例においては、上記クランプ手段により、ディスク2は、圧縮ばね111によって付勢力を付与された押圧部材6とターンテーブル86とによって弾性的に挟持されるものと認められ(甲第2号証11欄22行~30行、14欄33行~15欄15行、甲第3号証補正の内容(4)、(5))、一方、引用例1(甲第4号証)の記載によれば、引用例発明1においては、上記クランプ手段により、ビデオディスク22は、押圧ディスク36と弾性パッド26を設けた回転ディスク16とにより、弾性的に挟持されるものと認められる(甲第4号証訳文5頁8行~8頁10行)。
したがって、ディスクを弾性的に挟持するという意味においては、本願発明も引用例発明1も変わりはなく、ただ、その弾性を持たせる部材が、本願発明にあっては、押圧部材(引用例発明1の押圧ディスクに相当)側に設けられた偏圧付与手段(圧縮ばね111)であり、引用例発明1にあっては、ターンテーブル(同回転ディスクに相当)側に設けられた弾性パッドであるという点で相違しているにすぎないというべきである。
そして、審決がこの点についての周知例として挙げる実開昭51-64609号公報(甲第7号証)には、押圧盤1の背面に設けられたキャップ5内のスプリング6により押圧盤を下方に押し下げて、ディスクをターンテーブルに押さえ付けるディスククランプが、実公昭16-16908号公報(乙第1号証)には、録音盤圧支用の筒体(4)を圧縮弾機(5)により録音盤に圧接し、その辷動を防ぎ録音盤の回転を正確にする録音盤支持装置が、特公昭49-26570号公報(乙第2号証)には、ディスク41を押さえるフランジ89をばね88により下方に押さえ付けるディスククランプが、それぞれ開示されており、これらの公報によれば、ディスクのクランプ機構において、ディスク担持面に向かう付勢力による偏圧を与える偏圧付与手段は、従来周知の技術手段であることは明らかである。
したがって、引用例発明1におけるクランプ手段に換えて、従来周知の上記偏圧付与手段を採用することは、当業者が容易に想到できることは当然というべきである。
原告は、前掲実開昭51-64609号公報(甲第7号証)に開示されたクランプ手段を引用例発明1の構成に組み込んだとした場合、ディスクを挟持するクランプ部材側とターンテーブル側の双方が柔軟な構成となり、不具合が生ずる旨主張するが、審決が上記公報を挙げたのは、ディスク担持面に向かう付勢力による偏圧を与える偏圧付与手段が従来周知であることを示すためであって、同公報記載のクランプ手段そのものを引用例発明1に適用することをいうものでないことは明らかであり、また、もし原告主張のような不具合が生ずるものであれば、上記周知技術の適用するに際し、この点を考慮して不具合の生じないようにする程度のことは、上記周知技術の内容からして、当業者が容易になしえることと認められる。
原告の主張は、この分野における技術水準を無視した主張といわなければならず、およそ採用に値しない。
3 取消事由3(相違点(3)の判断の誤り)について
引用例2(甲第5号証)には、「本案装置ヲ使用シタル録音機ニ依ルトキハ中心栓(3)ニ嵌合セシメタル録音盤(1)ハ其中心孔ノ内脛ト圓形勾配盤(4)ノ外脛トカ同脛ヲナス位置ニ止リ更ニ加壓板(6)ヲ以テ之ヲ廻轉板ニ抑壓固定スルトキハ録音盤(1)ハ廻轉板(2)ト完全ニ同心ニ固定セラレルコトトナルモノナリ」(同号証1頁上欄末行~下欄4行)との記載があり、引用例2の図面には、加圧板(6)が録音盤(1)を押圧固定した状態が示されていることが認められる。
また、同図面において、加圧板(6)が録音盤(1)を押圧固定した状態において、たまたま中心栓(3)の拡径部と円形勾配盤(4)とが当接したように描かれていたとしても、中心栓(3)の下端螺子(3')を回転板(2)の凹孔(2')の螺子孔の螺込み量により調節できるものと考えられるから、録音板の偏心の防止を目的とする引用例発明2の技術的意味を考えると、一般には両者は当接しないような状態で使用されるものと解するのが相当である。
原告は、同図面において、録音盤(1)の中心孔は下方に向かって拡径しており、このような構成においては、芯出し部材のテーパ部の最大径と比較さるべきディスクの中心孔の直径は最小径なのか或いは中間径なのか最大径なのか定まらない旨主張している。
確かに、同図面において、録音盤(1)の中心孔はテーパ面となっており、どの部分をもって中心孔としてよいか定かでないともいえるが、同図面を子細に検討すると、録音盤(1)の中心孔の最大径の部分(底面部)が、円形勾配盤(4)(芯出し部材)のテーパ部の最大径の部分よりも上方のところ(最大径よりも幾分径が小さいところ)に留まっていることが認められる。また、仮に、ディスクの非載置時にディスク担持面よりクランプ部材側におけるテーパ部の最大径がディスクの中心孔の直径よりも小さい場合は、ディスクの芯合わせ作用が行われなくなり、芯出し部材にテーパ部を有するように構成した技術的意味がなくなるから、ディスクの偏心を防止するという作用効果を奏するためには、当然にディスクの非載置時にディスク担持面よりクランプ部材側におけるテーパ部の最大径がディスクの中心孔の直径より大となるように構成しなければならないものといえる。
したがって、引用例発明2は、同図面の場合においても、所期の「録音盤の中心孔径の大小に拘らず録音盤の偏心を防止する」という目的を達成していることは明らかであり、本願発明と同様の目的を有するものと認められるから、この点に関する審決の認定判断に誤りはない。
よって、取消事由3も理由がない。
4 取消事由4(顕著な作用効果の看過)について
引用例1(甲第4号証)には、「上部にテーパ状の領域を有する回転ディスクは、回転可能で且つ駆動軸と同軸中心に可動連結され、さらにカバーが閉じた状態にあるとき製造精度の変動によりビデオディスクの間で互いに変化する孔の寸法や軸の大きさにかかわらず回転ディスクのテーパ状の領域をディスクの中心孔に正しく係合せしめる圧縮ばねに担持されている。」(同号証訳文3頁3~10行)、「作動時には、カバー11の閉鎖は、ビデオディスク22を回転ディスク16の弾性パッド26に抗して押圧し、さらにディスク22の中心孔の縁部をテーパ領域164の表面に抗して押圧するので、弾性パッド26及び内側部材163は同時に下方に移動される。テーパ領域164は、圧縮ばね18によって回転ディスクの特性とは独立に上方に付勢されるので、パッドが最大に圧縮されたときでも、テーパ領域はディスクの中心孔と係合することができる。」(同訳文11頁18行~12頁8行)との記載があり、引用例2(甲第5号証)には、「本案装置ハ録音板(1)ヲ廻轉板(2)上ニ完全ニ之ト同心ニ固定セシメ得ルヲ以テ扁心録音ノ虞無ク従ツテ再生ニ際シ廻轉ムラヲ生スルコト無キ效果アルモノナリ」(同号証1頁下欄5~7行)との記載があることが認められる。
以上の記載によれば、引用例発明1における上方にテーパが付された部分164を有する内側部材163、あるいは引用例発明2における円形勾配盤(4)が、少なくともディスクの中心孔径のばらつきに拘らず確実に芯出しを行うために設けられていることは明らかである。
これに対し、本願明細書には、芯出し動作及び作用効果について、「ビデオ・ディスク2を押圧部材6によつてデイスク担持面87に向けて押圧することにより、芯出し部材92が圧縮ばね91の付勢力に抗してターンテーブル86の凹部93内に没しながらそのテーパ面によつてビデオ・ディスク2を正確に芯出しし、直後にビデオ・ディスク2は押圧部材6の押圧面とターンテーブル86のディスク担持面87との間に挟持され、クランプが完了する。」(甲第2号証15欄7~15行)との記載がある。
原告は、引用例発明1及び2の芯出しが行われる実態について述べ、両者とも、こじれ等の芯出しに対する阻害要因を持つから、本願発明とはその作用効果について顕著な差異があると主張している。
しかし、上記各記載から分かるように、引用例発明1及び2が、ディスクの芯出しの作用効果を有していることは明らかであり、本願発明の芯出し動作がディスクを押圧部材と回転板とにより弾性的に挟持することと、テーパ面を有した芯出し部材が押圧部材に向けてばねにより付勢されることによるものと認められる以上、その作用効果において引用例発明1と本質的な差異は認められず、本願発明の作用効果は予測可能なものと認められるから、この点に関する審決の判断に誤りはない。
よって、取消事由4も理由がない。
5 以上のとおりであるから、原告主張の審決取消事由はいずれも理由がなく、その他審決にはこれを取り消すべき瑕疵は見当たらない。
よって、原告の請求を棄却することとし、訴訟費用の負担及び上告のための附加期間の付与について、行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条、158条2項を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 牧野利秋 裁判官 押切瞳 裁判官 芝田俊文)
昭和59年審判第13097号
審決
アメリカ合衆国、カリフォルニア州 92627、コスタ・メサ、スウィート211、フェアービュー・ロード 2183
請求人 デイスコビジヨン アソシエイツ
東京都中央区銀座3丁目10番9号 共同ビル(銀座3丁目)
代理人弁理士 藤村元彦
昭和54年特許願第18502号「光ディスクプレイヤ」拒絶査定に対する審判事件(平成3年4月26日出願公告、特公平3-30215)について、次のとおり審決する。
結論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
本願は、昭和54年2月21日(優先権主張1978年3月27日、米国)の出願であって、その発明の要旨は、出願公告後提出された平成4年5月29日付け手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲に記載された次のとおりのものと認める。
「スピンドルモータにより回転せしめられるスピンドルシャフトと、前記スピンドルシャフトに固定されてこれの回転中心軸に垂直にして平坦なディスク担持面を有し演奏さるべき光ディスクを担持して回転するターンテーブルと、前記光ディスクを前記ディスク担持面上に固定するクランプ手段とを含む光ディスクプレイヤであって、前記クランプ手段は、前記スピンドルシャフトの中心軸方向において移動自在なクランプ部材と、前記クランプ部材に前記ディスク担持面に向かう付勢力による偏圧を与える偏圧付与手段とを有し、前記ターンテーブルはその回転中心軸の周りに前記ディスク担持面にて開口する凹部を有し、前記スピンドルシャフトに摺動自在に嵌合して前記凹部に出没自在にもうけられて前記クランプ部材に向かって漸次縮径するが如く外周部にテーパ面が形成されたテーパ部を有する芯出し部材と、ディスクの非載置時に前記ディスク担持面より前記クランプ部材側における前記テーパ部の最大径が前記ディスクの中心孔の直径よりも大となるように前記芯出し部材を前記クランプ部材に向けて付勢する付勢手段とを有することを特徴とする光ディスクプレイヤ。」
これに対して、当審における特許異議申立人ソニー株式会社が甲第1号証として提出した米国特許第4068851号明細書(以下「第1引用例」という)には、モータ(12)により回転せしめられるシャフト(12')と、該シャフトに円筒部(162)を介して固定され、ビデオディスク(22)が載置される外周部(161)を有し、前記ビデオディスクとともに回転する回転円盤(16)と、前記ビデオディスクを前記回転円盤に対し押圧し、前記ビデオディスク及び前記回転円盤とともに一体となって回転する押圧円盤(36)とを有し、前記回転円盤の前記円筒部内には、前記シャフトに摺動自在に嵌合して前記円筒部内に出没自在に設けられて前記押圧円盤に向かって漸次縮径するテーパ部を有する内部部材(163)と、前記内部部材を前記押圧円盤に向けて付勢する圧縮ばね(18)が備えられているビデオディスクプレイヤが記載されている。
また、同じく甲第2号証として提出した実公昭15-14050号公報(以下「第2引用例」という)には、回転板(2)の中心部に凹部(2')を設け、その中心に中心栓(3)を固定し、凹部(2')内に中心栓(3)を中心として円形勾配盤(4)及び発条(5)を遊設するとともに、中心栓(3)の上部に設けた螺子(3")に着脱自在に螺着し得る加圧板(6)を設けることによって、録音盤(1)を回転板(2)と同心に固定する技術が記載されている。
本願発明(以下「前者」という)と第1引用例に記載されたもの(以下「後者」という)を対比すると、後者におけるモータ(12)及びシャフト(12')は、前者におけるスピンドルモータ及びスピンドルシャフトと同一のものであることは明かであり、また、後者における回転円盤(16)、押圧円盤(36)、前記回転円盤に設けられた円筒部(162)、内部部材(163)、及び圧縮ばね(18)は、それぞれ前者におけるターンテーブル、クランプ部材、前記ターンテーブルの回転中心軸の周りに設けられた前記ディスク担持面にて開口する凹部、芯出し部材、及び付勢手段に相当するものであると認められるので、両者は、スピンドルモータにより回転せしめられるスピンドルシャフトと、前記スピンドルシャフトに固定されてこれの回転中心軸に垂直にして平坦なディスク担持面を有し演奏さるべきディスクを担持して回転するターンテーブルと、前記ディスクを前記ディスク担持面上に固定するクランプ手段とを含むディスクプレイヤであって、前記ターンテーブルはその回転中心軸の周りに前記ディスク担持面にて開口する凹部を有し、前記スピンドルシャフトに摺動自在に嵌合して前記凹部に出没自在に設けられて前記クランプ部材に向かって漸次縮径するが如く外周部にテーパ面が形成されたテーパ部を有する芯出し部材と、前記芯出し部材を前記クランプ部材に向けて付勢する付勢手段とを有するディスクプレイヤである点で一致し、以下の点で一応相違する。
(1)前者は、光ディスクプレイヤであるのに対して、後者は、その点が明確でない点。
(2)前者のクランプ手段は、スピンドルシャフトの中心軸方向において移動自在なクランプ部材と、前記クランプ部材に前記ディスク担持面に向かう付勢力による偏圧を与える偏圧付与手段とを有しているのに対して、後者のクランプ手段は、ディスクをターンテーブルに対し押圧し、前記ディスク及びターンテーブルとともに一体となって回転する押圧円盤によって構成されている点。
(3)前者の付勢手段は、ディスクの非載置時に前記ディスク担持面より前記クランプ部材側における前記テーパ部の最大径が前記ディスクの中心孔の直径よりも大となるように前記芯出し部材を前記クランプ部材に向けて付勢しているのに対して、後者の付勢手段は、その点が必ずしも明確ではない点。
以下、上記の各相違点について検討する。
相違点(1)について、
光ディスクプレイヤ自体は周知(例えば、当審の拒絶理由通知において引用した特開昭53-27408号公報参照)であるから、この点の相違は格別なものではない。
相違点(2)について、
「付勢力による偏圧を与える偏圧付与手段」の意味及び構成は必ずしも明確ではないが、この種のディスクプレイヤにおいて、ディスクをディスク担持面上に固定するクランプ手段を、スピンドルシャフトの中心軸方向において移動自在なクランプ部材と、該クランプ部材に前記ディスク担持面に向かってばねによる付勢力によって偏圧を与える偏圧付与手段とを用いて構成することは周知(例えば、原査定の拒絶理由において引用された実開昭51-64609号公報参照)であるから、この点の相違は、該周知技術を参照することにょり、当業者が容易に変更実施し得る事項にすぎない。
相違点(3)について、
第2引用例に記載された円形勾配盤(4)即ち芯出し部材はその機能からみて、ディスクの非載置時に、前記ディスク担持面より加圧板(6)即ちクランプ部材側におけるテーパ部の最大径が前記ディスクの中心孔の直径よりも大となるように前記クランプ部材に向けて付勢されているものと認められるので、この点の相違も格別なものとは認められず、第2引用例に記載された技術を参照することによって当業者が容易に実施し得る事項にすぎない。
そして、第1乃至第2引用例に記載されたものも、ディスクの中心孔径のばらつきに拘らずターンテーブルに対して確実に芯出しを行っているものと認められるので、本願発明が奏する作用効果も格別なものとは認められない。
したがって、本願発明は、第1乃至第2引用例に記載されたもの及び前記の各周知技術に基づいて当業者が容易に発明することができたものと認められ、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
平成5年5月18日
審判長 特許庁審判官 (略)
特許庁審判官 (略)
特許庁審判官 (略)
請求人 のため出訴期間として90日を附加する。